お知らせ

グローバルリスクとボーダースタディーズ:Border Regions in Transition第17回大会からの報告

BRITコーディネーターたち

岩下明裕(長崎大学/北海道大学)

2025年5月26~28日、セントラル・ランカシャー大学キプロスで、BRIT(Border Regions in Transition)第17回会議が開催されました。前回のアフリカ大会から7年ぶりとなったこの大会には、ボーダースタディーズに関心を持つ研究者たちが世界から集まりました。とりわけ、ロシア・ウクライナ戦争に関する旧ソ連・東欧地域に関する報告が多く、欧州中心の議論となりましたが、報告者はロシアに隣接する北海道・根室の人びとのアンケート調査をもとに、戦争後に「砦」化した境界地域の人びとの苦悩と将来に対する期待についてプレゼンを行いました。領土問題があるにもかかわらず、ポスト冷戦期に「パスポートなし・ビザなし」渡航やコンブ漁などで境界を越えた交流があった実情は、欧州の研究者に刺激を与えたようです。もっともロシアのウクライナ侵攻以後、交流は途絶えており、それをどのように再構築するかという課題に直面しており、この問題意識は欧州にも共有されるものでしょう。

米国からはABS(Association for Borderlands Studies)のローリー・トラウトマン会長を始め、アフリカ、中東からも過去のBRIT大会コーディネーターたちが参加しました。

戦争の下、アジアと異なり、「ゲートウェイ」から「砦」へと変貌しつつある欧州の境界地域の研究は厳しい状況にあり、いわば境界地域研究は戦争のグローバルリスクを考えるための最前線に立たされています。とはいえ、BRITに初めて参加する若手研究者も多く、「新冷戦」ともいわれるグローバルな苦境の連鎖のなか、これを乗り越える「ボーダースタディーズ2.0」の創造がいまこそ求めらています。

大会終了後は、ニコシアを始め、分断国家キプロスの現実を学ぶフィールドトリップが実施され、BRITならではの現場に寄り添う研究スタイルが発揮されました。

*BRIT大会の軌跡 https://brit.uclancyprus.ac.cy/brit-conferences/

(岩下明裕:長崎大学/北海道大学・第12回BRITコーディネーター)