事業概要
長崎大学では、「人類と地球の抱える多様で相互に連関する問題群の解決に向け、学際的にその知を結集・創造することで世界的プラネタリーヘルスの実現に貢献する」ことを宣言し、"グローバルヘルス" "グローバルリスク" "グローバルエコロジー" の3つの分野に貢献する研究と教育を推進しています。この "グローバルリスク" の最先端研究の一翼を担うものとして、2024 年6 月1 日、グローバルリスク研究センター(Research Center for Global Risk)を設置しました。
センターでは、原爆被爆の経験を有する長崎大学の歴史と、これまでの平和教育・核兵器廃絶研究において独自に継続的な取り組みや熱帯医学・感染症の卓越した実績を持つ長崎大学の強みを活かしつつ、人文社会科学的叡智を統合し、核の使用リスクや地球環境破壊、パンデミックなど人類の存続に影響しうる地球規模のリスクについての学際的研究を推進していきます。
また、文理協働のもと、国際的な連携や共同研究を実施し、国際社会へのさまざまな提言を行うとともに、次世代の研究者、政策立案能力のある専門家、国際社会におけるリーダーの育成も行う学際的研究創発の場をつくります。
センターは学内の部局横断型の組織として、グローバルリスクに関心をもつ兼務教員から構成されています。グローバルリスクを6つの領域に区分しつつ、領域を超えた複合的かつ重層的なリスク生成を予見し、対処する新しい共同研究の場を学外の研究者、実務者、市民のみなさまとともに運営します。
センター長挨拶
このたびグローバルリスク研究センターの立ち上げに際し、センター長を拝命した岩下明裕です。私は実は「グローバルリスク」という名称を使って仕事をした経験はこれまでありません。ただグローバルリスク研究の重要な論点のひとつ、世界中でさまざまなかたちで頻発し、かつ相互に連関しうる紛争の問題については長年にわたり、考えてきました。とくに国家間や地域における国境や境界をめぐる紛争をどのようにマネージするか、そして地域に暮らす人びとの利益になるようにどのような解決を目指すべきかについて、アカデミックな分析のみならず、実社会に適用可能なモデルの提言も含めて活動を積み重ねてきました。これらの経験をもとに、グローバルリスク学を通じて、新たな社会貢献ができればと考えています。
いまの世界を見ると、人類が類的存亡の危機を迎えつつあるのは、誰もが実感するところかと思います。他方で、目の前で人びとが息絶える戦争や災害、貧困の現場を除いて、私たちはこれをどこか他人事のような醒めた感覚も併存しているように感じます。あまりにも情報が過多で移ろいやすく、生き急ぐ現代世界において、その危機をじっくりと考える機会が少ないこともまた事実です。
長崎大学が新たに設置した本センターでは、わが国のみならず、世界の多くの方々に、いま私たちが直面している危機の大きさと深さを訴えていきたいと思います。センターでは、グローバルな視座から気候変動、核・バイオ、感染症、軍事紛争、情報インテリジェンス、社会分断など多様な争点をリスクとしてとらえ、その発見と管理、処方と予防に関する総合的な研究を推進します。
長崎大学には、原爆後障害医療研究所、熱帯医学研究所という名だたる研究機関とともに、人文社会系の学問をリードする大学院・多文化社会学研究科、経済学研究科、再生可能エネルギー・自然環境・カーボンニュートラルなどをカバーする総合生産科学研究科、被爆の記憶を継承し「核兵器不要の世界」を目指す核兵器廃絶研究センターなど、特色があり、強みを持つ組織が数多くあります。
長崎大学のもつこれら人文社会と科学のリソースを糾合し、文理協働のネットワークを対外的に国際水準で構築していく所存です。それとともにグローバルなリスクがどのように現場(ローカル)に影響をもたらすか、そして現場の人びとがどのようにこれらの危機に向き合うかを、市民の方々と一緒に考えたいと思います。
本センターは、グローバルな視野とネットワークでリスクを研究します。しかし、リスクを背負うのは現場、ローカルに暮らす市民のみなさんです。長崎という地から創造するこのセンターは常に皆さんとともにありたいと願います。立ち上がったばかりのセンターですが、どうぞみなさまのご指導、ご鞭撻をよろしくお願い申し上げます。
岩下 明裕
組織
〇グローバルリスク学原論
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Compel Radomir
ユニット長 多文化社会学研究科 准教授研究内容比較政治学 -
Gülbeyaz Abdurrahman
多文化社会学研究科 准教授研究内容人間科学、記号論、社会理論 -
寺田 晋
多文化社会学研究科 助教研究内容社会理論、国際社会学 -
藤田 泰昌
経済学研究科 准教授研究内容国際関係論 -
高橋 将宜
総合生産科学研究科(情報データ科学系) 准教授研究内容統計科学
〇情報・テクノロジー
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高村 昇
ユニット長 原爆後障害医療研究所 教授研究内容放射線リスク科学 -
田村 康貴
多文化社会学研究科 助教研究内容倫理学 -
金谷 一朗
総合生産科学研究科(情報データ科学系) 教授研究内容メディア芸術・感性情報学・デザイン学・文化財科学・文化人類学 -
横山 須美
原爆後障害医療研究所 教授研究内容放射線生物・防護学 -
林田 直美
原爆後障害医療研究所 教授研究内容医学、ヘルスケア、甲状腺
〇地政・経済
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式見 雅代
ユニット長 経済学研究科 教授研究内容銀行論、企業金融、サステイナブルファイナンス -
葉柳 和則
多文化社会学研究科 教授研究内容地域研究、国際文化論 -
Alayna Ynacay-Nye
多文化社会学研究科 助教研究内容政治経済学、農業社会学 -
桑波田 浩之
経済学研究科 准教授研究内容経済学、国際貿易 -
清田 智子
グローバル連携機構 准教授研究内容国際安全保障、インド
〇社会・感染症
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飯島 渉
ユニット長 熱帯医学研究所 教授研究内容医療社会史 -
佐藤 靖明
多文化社会学研究科 准教授研究内容人類学、アフリカ地域研究 -
南 誠
多文化社会学研究科 准教授研究内容社会学 -
南森 茂太
経済学研究科 准教授研究内容日本経済史,日本経済思想史
〇環境
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三輪 加奈
ユニット長 経済学研究科 教授研究内容開発経済学 -
河村 有教
多文化社会学研究科 准教授研究内容刑事法学、国際刑事法学 -
五島 聖子
総合生産科学研究科(環境科学系) 教授研究内容環境計画 -
昔 宣希
総合生産科学研究科(環境科学系) 准教授研究内容環境経済学 -
Lina Madaniyazi
熱帯医学・グローバルヘルス研究科 准教授研究内容環境疫学、気候変動、大気汚染
〇核・生物
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春日 文子
ユニット長 熱帯医学・グローバルヘルス研究科 教授研究内容サステナビリティ科学、食品安全 -
西田 充
多文化社会学研究科 教授研究内容国際安全保障、核抑止・軍備管理、核軍縮不拡散 -
樋川 和子
核兵器廃絶研究センター 教授研究内容核軍縮・核不拡散
〇グローバルリスク研究センター専任教員
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岩下 明裕
グローバルリスク研究センター センター長研究内容国際関係・ボーダースタディーズ -
Yesbol Sartayev
グローバルリスク研究センター 助教研究内容環境放射線疫学、原子力災害と防災、バンキング、企業金融
進行中の研究プロジェクト
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貧困、メンタルヘルス、デジタル技術及び環境等のこどもに対するグローバルリスクの研究
河村 有教(代表者)、三輪 加奈
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プラネタリー・リスクの多元的関係性―カタストロフィーの潜在と生態系の安全・安心の模索―
コンペル ラドミール(代表者)、西田 充、田村 康貴、樋川 和子、清田 智子、昔 宣希、飯島 渉
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復興プロセスにおけるリスクコミュニケーション―歴史と記憶の継承による社会構想力の検討
佐藤 靖明(代表者)、高村 昇、イナキナイ アレーナ ディアン アイリン
多文化社会学研究科 森川 裕二 教授※、長崎県立大学 鄭 美香 非常勤講師※、RECNA 中村 桂子 准教授※ ※研究協力者 -
リスク概念の再検討のための多文化社会学的研究
寺田 晋(代表者)、ギュルベヤズ アブドゥルラッハマン、南 誠、田村 康貴
多文化社会学研究科 森 元斎 准教授※ ※研究協力者 -
小国のリスクヘッジと生き残り戦略–––「国境侵犯」への対応を中心に
葉柳 和則(代表者)、樋川 和子、清田 智子、ギュルベヤズ アブドゥルラッハマン、コンペル ラドミール、南 誠、寺田 晋
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政策の不確実性がグローバル・サプライチェーンに与える影響に関する計量分析
桑波田 浩之(代表者)、高橋 将宜
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グラナダ日系人収容所跡国立公園
五島 聖子(代表者)、金谷 一朗、西田 充、南 誠
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The effect of Carbon Market Linkage in Asian countries: Evidence form Macro and Micro Economic Data Analysis
昔 宣希(代表者)、式見 雅代
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現代の戦争産業と科学の貢献 ― 中東における永久戦争を中心に ―
ギュルベヤズ アブドゥルラッハマン(代表者)
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ヒンドゥー至上主義がインドの軍事大国化に与える影響
清田 智子(代表者)
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知識・技術の導入者によるデメリットの「矮小化」はグローバルリスクの元凶となるのか?
南森 茂太(代表者)